もういいんでないか

諦めたり進んだり振り向いたりする雑記

さよなら愛する人・しないか仲直り

ジェームズの「without you」の発音は、とてもなめらかだ。耳に馴染む。多くの歌手が歌詞にならぶこの言葉をその声でなぞってきただろう。
事実、日本語という母国語があれどこの国でもなんども聞いた言葉である。
しかし、ジェームズの「without you」だけは違う響きのような、なにか高尚なものすらかんじる。ジェームズだけが使える言葉のような、まごう事なき別格。
もともとこの曲はとても大切に、大切に、言葉ひとつひとつがゆっくりと、ジェームズのリズムで、ジェームズのやさしさで、ジェームズの感情のまま吐き出されている印象がつよい。情けない男だと言う人もいるかもしれない。だがわたしは何度も泣きそうになった。
男の失恋ソングと言えども、そっと寄り添うようなあたたかさと人間味のある後悔などの思いが、聴く者の心を満たすのである。これを歌唱力というならば、音楽というのは本当に、ありがたいくらい、ずるいもんだ。

歌詞の中で「君に好かれたことで勝った気になってた」と下手ながら和訳できる部分がある。
ものすごく、人生の色が変わるほどの出会いで、思いで、付き合っていた彼女に、そんな大切なことはさらさら打ち明けることができず、ずっとずっと自分のものだと、注がれる好意は永遠だと確信しては結婚を申し込まず放棄しタイミングを逃し、そうしていざ別れが来たら「君が僕の運命の人だった」と言う。ついには心が空っぽになったとうたう、そんな、歌だ。

この歌へ共感に値する恋愛は残念ながらなのか、幸いなことになのか、自分はしていないが、好意というものは世の中、恋愛に関係ないものでも山ほどある。なんであのときああしていなかったんだと悔やむことは、恋愛以外でも、たくさんあるのだ。


職場の友人が「あなたはわたしの母国にいる親友にそっくりだ」と言う。「もう随分と連絡を取っていない。わたしはいつもFacebookで彼女の近況を知るだけ」そう言う。はじめはそれくらいのものだと思い、「そうなんだ」と返していた。

つい最近、その友人と飲んだ。泣き上戸も相まってか彼女は涙を流しながら「なんでそんなに親友にそっくりなの」と私に訴えた。ドラマのセリフみたいなことを言うなあと、泣き上戸の酔っ払いをいなしながら、わたしもちびちび飲んでいた。
そもそもが酔った勢いで、続く友人の「親友との間にあったこと」をわたしはのんびり聞いた。普段、気丈に働いて笑顔の多い人だったから、聞くだけ聞いてスッキリするならばという気持ちもあった。
彼女が話す内容はありふれたものでありながらも、さみしいものだった。

5年前、親友と些細なことで喧嘩をした。大好きなことに変わりはないのに、まわりの友人に「彼女はおまえのこと嫌いになったって言ってたよ」と言われ、怖くなり、謝るのも、それが本当かどうかも確認できないまま、5年間、うじうじと悩み続けて日本にきてしまった。
後悔に後悔が重なり、なおかつ、職場には親友にそっくりな日本人まで居て、連絡がとりたくなり、でもなかなか5年間の溝を埋めるような勇気も出ず、本当に、本当に、辛い。

彼女は泣きながら何度もなんども「つらい」と言った。単に語彙力の問題かもしれないが、それでも話の内容と彼女の感情に合った言葉であり、不覚にも「わたしにもそんな過去があったかなあ…」と無意味なことを考えてしまった。
その晩は彼女が泣き止んで、突然泣いてごめんねごめんねと言いはじめたあたりでおひらきにした。デリカシーに欠ける微妙なタイミングだったかもしれないが、泣き疲れた勢いで眠るのが良いだろうとおもった。(翌日、二日酔いになったとメールが来たけど…)


わたしにはそのような経験はない。自分は後悔というものに鈍いのかもしれない。後悔に後悔を重ねるほど実直ではないのだろう。
おそらく後悔に疲れたら、言い訳を積みかさねて正当化する、そんな悪賢いひねくれた性格である。彼女のように、シンプルにそして純粋に人を思い、言葉をかけれないことを悔やみ、そして5年も思いを重ねることは、自分にはない。
なにかを言い忘れたような記憶もない。それらを思い出して酒の勢いで泣くこともない。もちろん、後悔のない人生をおくっていると、胸を張れることもない。

Goodbye my loverを聴くと思うことがある。何かを想い悲しむことも、人生の恵みだなと。辛いことは辛いことに変わりはないが、友人の話を聞きながら、おもったことでもある。
それらは、きっと、悪いことではないのだろう。気がいくら病んだって、それは過ぎれば何かにとっての学びであり、後悔であり続ける限り、報われる時もくるのだろう。「報われる」、その幸福が得られるのもまた、涙をのむおもいをしてきた者のみだ。

しあわせでありますように。陳腐だが、心から思う。恋人の意味をこえて「lover」に含まれる人々が、どこかでしあわせであれば、それほどハッピーなこともそうそうない。


もう泣き上戸に絡まれるのも面倒なので、親友とはやいところ仲直りしてほしいのだ。



James blunt/goodbye my lover 

You touched my heart, you touched my soul
You changed my life and all my goals